〜店主の雑感〜
街づくりとイオン出店について(2007/01/11)
白崎 茂喜
今、鯖江市の郊外に日本最大の量販チェーン《イオン》が出店意思を表明し、当市のみならず隣接自治体や商業者を巻き込んで大きな問題になっています。伝えられる計画では13万平米を超える規模で年間800万人の集客数とか、ショッピングモールと言うより突如として一つの都市が当市の郊外に出現するようなものと言えます。例えは違いますが、その衝撃は、江戸末期に突如として浦賀沖に出現した黒船に匹敵すると言っても過言ではありません。
この出店に対し、雇用の拡大・建設等による消費拡大・固定資産税の収入増・集客効果等、経済的なメリットを上げて賛成する人もいるようですが、既に同種のショッピングモールが進出している地区の例をみても、集客効果はあくまでもショッピングモール内に留まり、中心市街地に波及することは考えられません。それどころか、今までの顧客を奪われた既存の商店街は益々寂れてまさにゴーストタウンと言った有様です。当市の中心市街地も年々衰退し、昨年だけで本町商店街でも21店中3店が、廃業或いは廃業を表明しています。残っている店も経営者は高齢化しており、このままでも後継者のいない店は近い将来廃業を余儀なくされる事は必定で、イオンの出店で加速度的に廃業は増えるでしょう。又、税収や雇用の拡大についても、他所の例を見ると既存の量販店が競争に負けて撤退しており、その場合差し引くと額面どおりの増収は得られない事も考えなければなりません。このように、イオンの出店は良い事尽くめではありません。計画どおり年間800万人もの人が訪れるとなると、交通渋滞も避けられません。遠方から買い物や遊びで訪れた人は、少々の渋滞も我慢できるでしょうが、地元住民にとっては日常の買い物まで渋滞で待たされ、迷子になりそうな程広い駐車場から目的の売り場にたどり着くまで時間がかかるとなると大変不便です。そもそも、このようなショッピングとレジャーを兼ねた巨大ショッピングモールは、各地から遊びに来る人の事しか考えていないのです。更に、これはイオンに限りませんが、深夜まで営業するショッピングモールの出店地域では、非行や犯罪が増加しています。ゲームセンター等の遊び場や溜まり場が増えるのが主な原因でしょうが、こうした勤務形態が増える事により親達が深夜まで或いは休日も働かざるを得なくなった事にも関係があるのではないでしょうか。
イオンは鯖江市への出店に際し、当市の都市計画に配慮した出店計画と言っていますが、越前市のサンドーム近辺への出店計画は取り止めたのでしょうか?その他、坂井市でも出店の計画があると聞きます。3箇所で出店しても採算が取れる筈はありません。とすれば、地元を天秤に掛けている訳で、非常に欺瞞に満ちた計画としか言いようがありません。又、鯖江市にしても、今までの産業を軸にした街づくりでは先が見えているので、イオンの出店に同意が得られるならこれを機会に商業を軸とした街づくりに転換したいと言っていますが、それまでの街づくりの計画は何だったのでしょう。急に降って湧いたイオンの計画にいとも安易に便乗するのでは、今までの計画はいい加減なものだったと自ら認めているようなものです。
次に、イオン側は『出店計画は改正されたまちづくり三法に適合したものであり、イオンのまちと言ったイメージにならないよう、核テナントを複数配置し、道路・排水・緑地等の周辺環境整備にも住民要望を充分取り入れて、云々』と言っていますが、出店する業者はいずれも都合の良い事ばかりを言う訳であって、そんな言葉がいかに信じられないかは、イオンが福井市等で行ってきた過去の例を見れば一目瞭然です。当市の例でも、平和堂は、本町に出店する際、消費者の為を言い、地元小売店との共存をうたっていましたが、わずか10年少々で不採算を理由に撤退しました。この間、商店街では青果店を始め幾つかの商店が廃業を余儀なくされ、廃業した店、出て行った店は平和堂が撤退した後も戻る事はありませんでした。こうして大きな空洞が出来た街は少しずつ寂れて行ったのです。では、不採算の原因を作ったのは何だったのでしょうか? 最も、大きな原因は平和堂自身が中心であるアルプラザの開店でした。同様にイオンにしても、例え出店したとしてもこの先永遠に鯖江市で商売しつづけるとは考えられません。一時は競争店や既存の商店街を蹴散らして成功を勝ち得ても、他の企業が石川県や福井市或いは越前市や敦賀市にそれ以上のショッピングモールを作って攻勢を掛けてきたら、不採算を理由に撤退するに違いありません。それは他所の例を見ても間違いない事実であり、その時大巨人によって蹂躙された鯖江市の市民はどうなる事でしょうか。
イオンと中心市街地の住み分けや共存を唱える人もいるようですが、商売に関して言えば、こちらに無い物がイオンに在っても、イオンに無い物はこちらにも在りません。大人それも大巨人と、疲れ果てた老人が闘うようなもので、まともには戦いにならず廃業や撤退に一層拍車がかかる事でしょう。残った店も他所への進出を考えなければ存続出来ないかもしれません。もしそんな事態が出現したら、中心市街地に居住する人達はどんなにか不便になる事でしょう。中でも、交通弱者と言われ自分で車を運転できないお年寄りにとっては、毎日の生活にも困る事態になると思われます。そして、その影響は鯖江市だけに留まりません。隣接の市町村にまで多大な影響を与える事になるのです。
昨年、“国家の品格”と言う本がベストセラーになりましたが、それによると自由競争こそが経済活性化の魔法の杖だとする市場原理主義が日本の伝統や、日本人の美風を蝕んでいると警告しています。まさに鯖江市は、日本における自由競争の勝組であるイオンと言う黒船から、札束をちらつかされて懐柔されているのです。『消費者に喜ばれる大きくて新しい街を作れば、市の内外からお客はどんどん集まって街は大きくなるぞ。金もやるし、人も雇ってやるから、落ちぶれた商店街なんか放って置いて出店を認めろよ。』と‥‥。今まで独自に都市計画を策定し、一歩ずつ住みやすい街、“心の豊かなまち”を育ててきた鯖江市の誇りや努力も、“共に喜びを分かち合ってきた”市民相互の信頼や友情も、突如現れた黒船によって、自由競争の名の下に侵害され粉砕される事態になったら、鯖江市は品格無き都市になってしまうのではないでしょうか。又、市側は既にほとんどの地元地権者が同意している事も考慮しなければならないと言っていますが、この計画は一私企業が勝手に立てたものであり、契約にしても一私企業と個人の契約に過ぎません。仮に計画が頓挫した場合(例え頓挫しても損をする事にはならない筈)も、鯖江市が誘致した企業なら責任はあるでしょうが、私的なビジネスの関係にまで市が介入する義務も責任も無いはずです。それより、地元地権者や関連業者がこの計画によって利益を得る一方で、隣接市町村も含め、それよりはるかに多くの商業関係者(商店主及び従業員)が、生活の糧を奪われるのは道理に合いません。廃業や倒産が出た場合は、誰がどう責任を取るのでしょうか。
巨大ショッピングモールは新しい街だと言われますが、そもそも街と言うものは、店が沢山あり便利で賑やかであれば良いというものではありません。商店の他に、病院・医院があり、駅や郵便局があり、学校があり、更には神社や寺院があり、その上に人々の暮らしがあって街が成り立っているのです。ショッピングモールは今まで大型店を核に、売れ筋商品を売る店や人気の食べ物屋等を集める事により成功してきました。非効率な部門は既存の街に依存して、言わば街の良いとこ取りをしていたとも言えます。それは、曲がりなりにも中心市街地が機能していて、彼等から見れば採算の取りにくい部門や非効率的な部門を、街中の商店街が引き受けていたからこそ可能だったと言えるでしょう。例えば急な事情がある時など、深夜或いは早朝や休日でも臨機応変に応対してくれるのは、決してショッピングモールの中の店や、ロードサイドのチェーン店ではなく、街中の個人商店なのです。しかし、もし中心市街地が衰退して空洞化してしまったら‥‥。その時、全国どこへ行っても同じ品揃え・マニュアルどおりの応対しか出来ないこれらのショップは、果たしてその役割りを担ってくれるのでしょうか。
一方、衰退しつつある中心市街地ですが、住みやすさと言う面に目を向けてみると、まだまだ捨てたものじゃないと言うことが出来ます。商店の数こそ減ったものの、前述したように、道路や下水等のインフラは勿論、人々の暮らしに直結する施設が充実していて、公共交通機関も完備しています。加えて、賑わいが薄れた事がかえって静かな住環境を生みだしました。特に中高年や幼い子供のいる家族にとっては理想的な住宅地なのです。これ以上、巨大ショッピングモールを作るより、街中に欠けている店を誘致して商店街に少しずつでも賑やかさを取り戻していく事こそが必要なのではないでしょうか。
中心市街地の活性化と言うと、何処の都市でも先ず取り組むのは街興しと称するイベント事業ですが、イベントは起爆剤でしかありません。活性化への近道はなく、一歩一歩着実に前進するのみです。具体的には、前述したように街中に欠けている業種の店や個性的な店を誘致して少しずつシャッターの下りている店を減らして行く事です。一例として、兵庫県の豊岡市は鞄の製造工場が多いのですが、街中に20店以上の工房ショップが軒を連ねて町興しに寄与しています。大型店に頼るより、小さな店でも個性的な店を集める事で街に活気と賑わいが甦るのです。そして、個々の商店が商売の原点に戻って日々の商いを一生懸命行い、イベントの時だけでなく普段からお得意様に喜んで頂けるサービスをする事に尽きると思います。そうすれば必ずやお客様から信頼され愛される中心市街地が復活する事でしょう。街づくり三法の主旨はコンパクトシティ即ち中心市街地の再生であり、何度も言うようですが、イオンの出店はこの主旨に真っ向から反しているのです。
最後に、我々商店街は零細で微力ではありますが、今まで多少なりとも鯖江市民の生活を支えてきたと自負しております。論語に『君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩(さと)る』と言う言葉がありますが、今、千載一遇のチャンス到来とばかり、一時の損得勘定で地元商店を犠牲にしてまでイオンの進出を容認するより、改正されたまちづくり三法の主旨を厳正に受け止め、県及び隣接市町村と歩調を合わせ、一丸となって巨大ショッピングモールの進出を阻止すべきです。鯖江市の未来を巨大企業の力に委ねるのではなく、市民と行政が手を携えて、自らの英知と弛まぬ努力による“心豊かなまちづくり”、“共に喜びを分かち合うまちづくり”を推進していくべきではないでしょうか。
小さな声も、集まれば大きく響きます。私の意見に賛同される方は、このホームページをお知り合いの方に紹介して下さい。 『イオンの街は立派に出来たけれど、鯖江市は街も人の心もバラバラになってしまった。』なんて事にならないようにと願ってやみません。
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